
認知症の方名義の家を売る時の手続きとは?税金等のポイントも解説
認知症のお祖父、祖母様が入居する施設の費用を捻出するため、お祖父、祖母様名義のご自宅を売却したいとお考えの方は少なくありません。しかし、認知症が進行している場合、家の売却は簡単ではなく、手続きや法的なハードルが生じてきます。この記事では、スムーズかつ安心して家を売却し、施設費用を確保するための流れや注意点を分かりやすく解説します。大切な家族の将来について考える際の一助として、ご一読ください。

認知症の祖母名義の家を売りたいときにまず確認すべきこと
認知症の祖母がご自身の意思で家を売る意向や能力があるかどうかは、最初に慎重に確認する必要があります。不動産の売買は法律行為にあたり、本人に意思能力がないと判断される場合、その契約は無効となる可能性があるためです(民法第三条の二)。
まずは、祖母が現在もご自身の意思で意思表示できているか医師の診断を受けて判断能力の有無を明らかにしましょう。そのうえで、「居心地が悪くなった」「介護施設の費用に充てたい」など、売却の目的が祖母本人の利益となることを確認することが重要です。本人の利益とみなされる目的がないと、家庭裁判所の許可は得られません。

もし祖母が明確な意思を示している場合、本人による意思表示が可能である限り、成年後見制度を使わずに売却手続きを進めることも可能です。ただし、認知症の進行具合や判断能力が不透明な状態で進めると、契約無効やトラブルの原因となるリスクがあります。そのため、専門家への相談や医師の診断・意見を慎重に取り入れながら進めることが大切です。
| 確認項目 | 内容の意義 | 注意点 |
|---|---|---|
| 判断能力の有無 | 本人の意思判断能力の確認 | 医師の診断書があると安心です |
| 売却の目的 | 祖母本人の利益となるかどうか | 家庭裁判所の許可に影響します |
| 意思表示の有無 | 祖母の意思かどうか確認 | 家族の都合だけでは不十分です |

認知症の祖父母の判断能力が低下している場合、どうすれば家を売れるのか
認知症の祖父母の判断能力が低下している場合、ご自宅を売却するためにはまず成年後見制度の利用を検討する必要があります。成年後見制度には「任意後見」と「法定後見」の二種類があり、任意後見は元気なうちに契約で後見人を決めておく方法、一方で法定後見はすでに判断能力が低下している場合に家庭裁判所が後見人を選ぶ仕組みです 。
法定後見の場合、家庭裁判所への申立から後見人の選任、登記手続きなどには、おおよそ2〜4か月程度かかるとされています 。その後、居住用不動産を売る場合には「処分許可申立て」を家庭裁判所に行う必要があり、許可取得までにさらに1〜2か月程度を要することが一般的です 。

売却手続き自体にはいくつか注意点がありますので、以下の表にまとめました。
| 項目 | 内容 | 留意点 |
|---|---|---|
| 成年後見制度の種類 | 任意後見・法定後見 | 任意後見は事前契約、法定後見は家庭裁判所の判断 |
| 申立てから許可取得までの期間 | およそ3~6か月 | 書類不備や家族間の合意不調で延びることがある |
| 売却代金の活用方法 | 施設費用などに充当 | 家庭裁判所に売却目的を明示し、正当性を説明する必要あり |
手続きの進め方としては、まず司法書士や弁護士などの専門家に支援を依頼すると、書類作成の負担が軽減でき、ミスの防止にもつながります 。また、家庭裁判所は売却の目的や代金の使い道が本人にとって利益があるかどうかを重視します。そのため、施設費用に充てることを理由とする場合には、具体的な事情や計画を示すことが大切です 。

家を売るタイミングと税金面での注意点
ご施設への入居を機にお祖母様名義のご自宅を売却される場合は、税金面や費用負担のリスクを考慮し、できるだけ早めに売却を検討されることをおすすめします。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 特別控除(最大3,000万円) | お祖母様が居住していた自宅を売却する場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度があります。「住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日まで」に売却することが適用条件です。これを逃すと、大きな税金負担が生じる可能性があります。 |
| 固定資産税などの維持費・リスク | 長期間空き家のままにしておくと、固定資産税の優遇措置が外れて税額が最大で6倍に跳ね上がることがあります。また、倒壊や犯罪、近隣トラブルといった重大リスクも高まります。 |
| 空き家リスク回避 | 管理が行き届いていない家屋は自治体から「特定空き家」などと指定され、罰則や行政代執行の対象になり得ます。売却や管理継続を迅速に判断されることが安心につながります。 |
まず控除制度についてですが、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」の適用条件として、住まなくなってから3年目の年末までに売却することが求められます。たとえば入居が決まった時点から時間が経つと、控除を受ける機会そのものを失ってしまう可能性がありますので、ご注意ください。国税庁の見解でも明確に定められています。

また、空き家を放置すると「住宅用地の特例」が解除され、固定資産税が最大6倍になるケースも報告されています。さらに、屋根の崩落や放火、不法侵入など、思いがけない事故や損害賠償のリスクも高まります。
以上のように、税制優遇の期限を逃さず、維持管理の負担や事故リスクを避けるためにも、施設入居が決まり次第、ご自宅の売却準備を早めに進めることが重要です。

スムーズに売却を進めるための心構えと準備ポイント
認知症の祖母名義の住宅を売却し、施設費用に充てる際には、まずご家族や本人との丁寧な意思疎通が不可欠です。判断能力の有無を確認しつつ、売却の目的や希望時期について率直に話し合い、全員の合意形成を図ることが重要です。これにより、家庭裁判所への申立てにおいても「本人の生活保障と売却の必要性」を明確に主張でき、許可取得の後押しになります。
特に判断能力が低下している場合には、成年後見制度の利用を検討し、司法書士・弁護士など適切な専門家への早めの相談をおすすめします。専門家は書類作成や家庭裁判所とのやり取り、売却の流れの段取りを支援し、手続きの負担軽減やリスク回避に役立ちます。法定後見制度では、後見人の選任から売却の許可取得まで通常2〜3か月ほどかかるため、余裕ある計画が重要です。

売却による資金は、施設費用へ確実に充てるための資金管理も大切です。売却代金の受け取り後、費用用途ごとに資金を分けて管理することで、透明性を保ちつつ適切な使途配分が実現できます。また、売却代金が本人の生活費や医療・介護費として使われることが裁判所にも認められやすくなります。
| 準備項目 | 内容 |
|---|---|
| 家族とのコミュニケーション | 売却目的や時期の共有、合意形成 |
| 専門家への相談 | 司法書士や弁護士に申立てや書類作成を依頼 |
| 資金管理の視点 | 売却代金の用途別に分けて管理し、透明性を確保 |
以上の心構えとポイントを守ることで、手続きが円滑に進むだけでなく、ご家族全体が安心して判断を進められる環境が整います。

まとめ
認知症の祖母名義の家を売却し、施設の費用に充てるためには、まず本人の意思確認と判断能力の把握が重要です。意思がはっきりしていれば手続きは円滑に進みますが、判断が難しい場合は成年後見制度の活用を検討しましょう。

また、家を売るタイミングや特別控除の期限など、税金面でも押さえておくべきポイントがあります。家族でよく話し合い、必要に応じて専門家へ相談することが大切です。事前の準備で、安心して大切な資産を次のステージへつなげましょう。
